【のすり部屋】

 「のすり部屋」は「朱鷺部屋」の隣の隣くらいにあります(たぶん)。ノスリの生態の一部をご紹介します。


《猛禽のなかまである》
 ノスリは猛禽のなかま。学名はButeo buteo、英名はCommon Buzzard。曲がった嘴と鋭い爪を持っています。淡い褐色ベースの羽色と、「腹巻き」状のこげ茶色が特徴です。全長は50cmくらいで、だいたいカラスと同じ大きさ。ユーラシア大陸の広い範囲に生息し、日本でも全国で観察できる鳥です。
 他の猛禽類の多くが、レッドデータブック類に絶滅危惧種などとして名を連ねるのに対して、ノスリは多くの地域で普通種とされます。「マグソダカ」という有り難くない俗名をもらっているだけあって、あまりスター性もないように思います。
 ノスリを研究している人はあまりいません。しかしながら、ノスリも他の猛禽類に決して劣らず、面白くて重要な鳥なのです。佐渡のノスリのことを少し紹介します。



《冬の野に満ちる》
 過去2回の冬にわたって実施した観察をもとに概算すると、佐渡島中央部の国仲平野だけをみても100羽程度のノスリが越冬すると考えられます。国仲平野では、トビやハイイロチュウヒ、チョウゲンボウ、ハヤブサなどの猛禽類もよく見かけますが、ノスリは最も数が多いかもしれません。ハイイロチュウヒやチョウゲンボウは繁殖期には島内で観察されない冬鳥で、島外から渡ってくる個体群ですが、ノスリは島内で繁殖する成鳥や当年生まれの幼鳥が平野部に下りてきて冬越しをするのではないかと思っています。
 国仲平野の環境は、ノスリが越冬するうえで格好の条件を提供するのかどうかは分かりません。少なくとも小鳥類はかなり数が少なく、餌の量はさほど多くないかもしれません。しかしながら、人為的に改変された農地という環境をノスリが巧みに利用できるということは、間違いありません。



《何だっていい、止まれたら…》
 国仲平野のノスリを見ていて驚いたのは、ほとんどのものに止まるということ。樹木や杭に止まるのは他の地域でこれまでたくさん観察してきましたが、電柱やガードレールは言うに及ばず、工事の盛り土、道路標識、ゴミ、挙げ句はパワーショベルのアームや回転灯まで利用することが分かりました。人工物であってもお構いなしの模様です。高い止まり場所は、広い視野を提供してくれます。広い視野が得られれば、探餌に有利です。この生態が国仲平野の個体群に特有のものなのか、他の地域でも同じなのか、見極めが必要ですが、躊躇なく人工物を利用するということは、人手の入った環境で生き抜くうえで重要な行動だと思います。



《よく風を読む》
 ノスリを見ていて一番面白いのは「空中浮遊」。主としてハンギングに分類される飛行行動で、上昇気流の発生する条件下で、停空飛翔しながら地上の餌を探索します。ごく簡単に言うと、ちょうど重力を相殺できるだけの上向きの風を翼で受けるようにチューニングして、ピタリと静止します。ふだんはどこかしらドンくさいノスリですが、秒刻みで変わる風向きや風速のなかで、ワイヤーで吊られたように停まってしまう姿は、優美ささえ感じてしまいます。もちろんこの「省エネ飛行」によって、ノスリは空中から楽に餌探しが出来ます。風の強い冬の国仲平野は、この意味ではおあつらえ向きでしょうね。
 このハンギングがどういう条件で起こるのか、定量的に検証しました(中津・永田 印刷中)。



《となりの猛禽の謎、つづく》
 すでに述べましたが、ノスリは研究対象として光を浴びていません。比較的普通に見られる種であることも影響していそうです。しかしながら、ノスリは里山では主要な捕食者のひとつと考えていいでしょうし、研究していく価値は十分にあります。希少種でないぶん予算のつくプロジェクトにはなりにくいでしょうが、コソコソと取り組んでいきたいものです。


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